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石けんの皮膚刺激についてのデータ [石けんまわりの化学(10)] [├ 用語・材料・化学っぽいこと]

石けんの皮膚刺激についてのデータ [石けんまわりの化学(10)]

石鹸作りの過程でのさまざまなことを少し真剣に考えてみるシリーズ。
ご意見ご感想はお気軽にコメント欄にどうぞ~



先日ココナッツ油高配合石けんの話を書いたので、その勢いでココナッツ油(ヤシ油)やパーム核油に多く含まれるラウリン酸の肌刺激性に関するデータを紹介します。

ココナッツ油(ヤシ油)は肌に刺激があるために石けんへの配合は20%以内にするのが適当といわれることが多いです。
これはココナッツ油に多く含まれるラウリン酸の石けんはわずかながら肌に刺激があること、あるいは特異的に含まれるカプリル酸やカプリン酸の刺激性のこと、この2つの観点の主にどちらを差しているのかはっきりしない書き方をされていることが多いように思います。

ココナッツ油に含まれるカプリル酸(C8)やカプリン酸(C10)に刺激性があるという話はよく聞かれますが、これはトリグリセリドから遊離した脂肪酸で存在するカプリル酸、カプリン酸の刺激性のことで、トリグリセリドの状態(グリセリンと結合している状態)にある場合には刺激性はありません。実際に分留ヤシ油(フラクショネイティッドココナッツオイル)はココナッツ油の中からカプリル/カプリン酸を多く含む成分を分留したものですが、キャリアオイルとしてマッサージ等に使われています。
日本で精製されて食用として流通するココナッツ油の場合にはJASの規格で遊離脂肪酸取り除くため、新鮮なものであれば遊離のカプリル/カプリン酸を心配する必要はありません。輸入食品店で販売されている「ココナッツのにおいのする」ココナッツ油は遊離酸を含んでいます。あのココナッツらしいにおいの一部は遊離のカプリル酸、カプリン酸によるものです。

また、石けんにする場合はそもそもすべての脂肪酸を一旦遊離させてアルカリ金属塩にするわけですから、遊離脂肪酸のことを云々言うのはちょっと的外れな感じがします。カプリル酸石けん、カプリン酸石けんはさほど刺激性が強いものではないことも下のデータから見て取れます。(石けんが長時間肌に残っている間にカプリル/カプリン酸が遊離して刺激を与えるという可能性は否定できませんが、これも洗浄中や洗浄直後の話ではありません)


そういうことでココナッツ油石けんの刺激性は大きな泡立ちを生み出す元であるラウリン酸石けんによるものが大きいと考えられます。
ラウリン酸石けんはわずかながら肌刺激性があるといわれます。正確には他の脂肪酸の石鹸よりも刺激性が少し高いということです。
下にお示しするデータはこの部分に関してのものですが、界面活性剤の刺激作用についてはまだ解明されていないことが多いとのことなので、1つ1つのデータの上っ面をみて絶対ダメとかよいとかいう安直な解釈はすべきで無いということはご了承ください。
そもそもわずかな刺激性であり、健康な肌の方は20%以上の配合であっても全く感じないこともあるでしょう(ココナッツ油100%の石けんも市販されており、人気があります)。しかし肌トラブルやアレルギーのある方にはごく少量でも刺激を感じるかもしれません。結局は自分の肌と相談して使うのがベストということです。



はじめに炭素数が異なる石けん成分の刺激性の違いを比較したデータです。



「刺激単位」は測定結果を相対的な指標で表したものと考えられるので、絶対値には余り意味はありません。山の形だけに注目してください。
飽和脂肪酸のNa塩とK塩、そしていわゆる合成系のアルキル硫酸Na塩においてもC12で刺激性が極大になります。C12で特に刺激性が強い原因についてはタンパク質変性作用による皮膚への浸透性が強いため、そして皮膚中での毒性が強いためと考えられているとのことです。
しかしこの結果をもって直ちにラウリン酸石けんはダメというわけではありません。次のデータを見てください。


次はラウリン酸Naの皮膚への浸透性をpHを変えて調べた結果です。



ラウリン酸石けんの肌への浸透性が大きくなるのは高pHあるいは中性に近いときであって、pH9.5~pH10.5 の範囲では高pHでの角質層障害や低pHでの脂肪溶解のような作用をほとんど示さないため、適切なpH範囲で使えば皮膚への浸透性は極めて低く刺激性は緩和であるといえます。

石けんが洗浄剤としての本来性能を最大に発揮できるpH9.5~pH10.5 の範囲で皮膚刺激が極小になるというのは非常におもしろい&すばらしい性質だと思います。
おそらく他の炭素数の脂肪酸石けんについても同じような傾向があるものと推察できます。

手作りせっけんの世界ではpHを下げれば下げるほど肌に優しいと考えている人も少なくないようですが、過ぎたるは及ばざるが如しということもあるかもしれませんね。



参照---------------
■「新版 脂肪酸化学 第2版」 稲葉恵一 平野二郎 編著, 幸書房 (1990)

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コメント 4

もなこ

>石けんが洗浄剤としての本来性能を最大に発揮できるpH9.5~pH10.5 の範囲で皮膚刺激が極小になるというのは非常におもしろい&すばらしい性質

おぉこれ!ほんとすばらしいーー
ほんとに過ぎたるは及ばざるが如しだわ

タイミングよくディスカウント21%の石けんできちゃったの(意図して作ったわけぢゃないよ)。解禁直後なのにつっぱり感皆無で、pH計ってみたら8。急いで消費しなくちゃな予感がして、この記事。
1個だけは今後どーなるか様子見用に残してみます。
by もなこ (2008-12-16 22:55) 

みかん

またまたいいことを教わり感謝です。
2番目のグラフ、すばらしいです!VIVA、石けん!
そしてこのグラフを見つけられてこの記事を書かれたゆりくまさんも
スバラシイ~!

(ゆりくまさん、すみません。
 私のブログの13日の記事(塩析の記録)の文中に
 ゆりくまさんのところへ勝手にリンクを貼ってしまいました。
 (差し障りがありましたら削除します。)
 事後報告になってしまい申し訳ありません!)
by みかん (2008-12-17 10:14) 

みかん

たびたびすみません・・・
↑の書き込み、15日の間違いでした。
by みかん (2008-12-17 10:16) 

ゆりくま

▼コメントありがとうございます。

■もなこさん
ディスカウント21%・・・? すげー。そりゃつっぱらないわ。
でも実際、多少石けんの浸透性が上がっても過剰の油たちがブロックしてくれるんじゃないかな。
(それって洗ってるって言っていいのかどうかは少々疑問ですが)
傷まないといいですね。

■みかんさん
面白いでしょ??
やるなー、石けん!って感じです。

リンクは基本的にフリーなのでご心配なく。
こちらこそありがとうございますです。
by ゆりくま (2008-12-18 00:35) 

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