INS value とは [├ 用語・材料・化学っぽいこと]
写真は今年も絶好調のイレーネ・ワッツの蕾。
本文とは関係ありません。。。
さて、英語のアルカリ計算アプリ(iPhone/iPad)でアルカリ量の他に計算されてくる「INS」って何?、という話がFBででましたので、すこし解説します。
日本ではあまりなじみがない値ですね。
INS value とは、
油脂のヨウ素価(Iodine value)と鹸化価(Saponification value)から決まる値(Iodin 'n Saponification value)で、
ずばり、オイルの配合でINSの加重平均値を160に近づけると時間を短縮しトラブルを避けて理想的な固形せっけんができる
という値です。すごいでしょ!
・・・いやいや、いますぐ飛びつきたくなる気持ちはわかりますが、ちょっと待って。
実は定義や根拠があいまい、科学と非科学(都市伝説)の狭間のグレーゾーンと考えられるネタなので、話半分で読み進めてくださいませ。
その前に噂のiPhoneアプリとは。。。
Soap calc(無料)あるいはSoap Calc Pro(有料)、です。
INSの他にも硬さや泡立ちの指標、脂肪酸構成なども出してくれてかなり凝ってます。有料版だと結果の保存ができるようです。
アプリへのリンクの貼り方がわからないので検索してください。ごめんなさい。
追記)これでいいのかな?
http://itunes.apple.com/jp/app/soap-calc/id503494605?mt=8
http://itunes.apple.com/jp/app/soap-calc-pro/id504499021?mt=8
INS値が米国で広まったのは、このブログでも紹介したことのあるDr. Robert S. McDanielの本「Essentially Soap」によります。
ロバートおじさんは有機化学のPhDだし、本全体は極めて科学的な視点から書かれているのですが、この値に関しては由来や根拠をあまり明らかにしていません。また、値をリストで示しているものの、各オイルについてどのように決められるものなのかも触れていません。
ただ、オイルの配合を決める場合に、INSを160に近づけるようにすると、硬さやその他の物性値が理想に近づくということも考慮してみてはどうか、とだけ書かれています。
なんとなく不完全燃焼。
更に他の本やネットフォーラムでのINS値の取り扱いを調べてみると、ロバートおじさんの信者でもあるAnne L. Watsonさんが著書Smart Soapmaking で少し掘り下げていて、出典らしい文献についても触れています。この文献はネットで入手できますが高額なので、私はまだちょっと。。。
と、ここまでの情報で整理してみます。
初めに、各オイルのINS値ががどのように決まるのか?
ロバートおじさんがリストしている各オイルのINS値と手元の物性表を見比べるとどうやら、
鹸化価 ー ヨウ素価
のようです。
鹸化価(mg-KOH/1g)は油脂 1gを鹸化するのに必要なKOHの量(mg)で、油脂を構成する脂肪酸の分子量(分子の大きさ)と関係があります。分子量が小さいと鹸化価が大きくなります。
ヨウ素価(g/100g)は有機化合物 100g中のC=C結合に付加するヨウ素の量(g)で、油脂を構成する脂肪酸の不飽和結合の多さを示しています。油脂の酸化しやすさの目安となります。また、ヨウ素価の大きい油脂の石鹸は柔らかく、小さい油脂の石鹸は硬くなる傾向があります。
次にこの値が意味するものは?
単位が異なり関係性も薄いこの二つの値の差は「100円引く20秒」みたいなもので何か定量的な物性を科学的に表現しているとは考えにくいものがあります。科学的にとは理論的に例外なくというニュアンスです。
硬さに関係するヨウ素価をマイナスすることから、同じような鹸化価の油脂同士であればINS値が大きいと硬い石鹸になるということが言えます。しかしこれだけなら単にヨウ素価を比較すればすみます。鹸化価が大きく異なる油脂同士ではINS値だけで相対的に何かを比較できません。
敢えて使うのなら、ポイントは「オイルのブレンドで加重平均を取る」というところにありそうです。
個々の油脂の物性値としては意味をなさないけど、ブレンドオイルの平均値を取ることで、石鹸の特性のうち分子量やヨウ素価に由来する部分がどのように発現するかをラフに予測できる(可能性がある)のではないかと考えます。
そしていよいよ本題、INSを160に近づけるといったいどんな良いことがあるのか?
これは先のロバートおじさんの書き方や、Anneさんをはじめ自作レシピのINS値を計算し比較した方々の感想、意見を参考にすると、
・ほどよい硬さ
・適度なトレースまでの時間
・分離やボロボロなどのトラブルが起こりにくい
など、仕上がりや作りやすさという点で無難になる、ということのようです。
肌への適性や使用感のよし悪しとは直接関係ありません。
例えば、INS値が小さいソフトオイルばかりのレシピは柔らかくてトレースに時間がかかったりする、INS値が大きいハード脂メインのレシピではガチガチに硬いしトレースが非常に早いことが多い、この間くらいになるのがINS値160くらいのブレンドということです。
Anneさんはご自分のレシピでは145〜160くらいにしておくと何だか大変な事態に陥りにくいというようなことを書かれています。
繰り返しますが、単品の油脂のINS値には全く意味はありません。
後にいくつか示すINS値の例をみるとカカオ脂やパームのINS値が160に近いですが、カカオ脂100%の石けんが適度な硬さで作りやすい、なんてことはきっとないですよね(感じ方には個人差がありますが)
だからどう、という数値ではないのですが、レシピ決定の決め手に欠けている時の目安くらいにはなるかもしれません。
■INS計算の仕方
各油脂のINS値の加重平均値をとります。
例として、オリーブ油72%、ココナッツ油18%、パーム油10%のレシピとします。
別表から、INS値は以下の通りです。。
オリーブ油 : 105
ココナッツ油 : 247
パーム油 : 152
加重平均なので、各油脂の配合比率とINS値を掛け合わせてから合計します。
INS値 = 105×0.72 + 247×0.18 + 152×0.10 = 135
■油脂のINS値
鹸化価、ヨウ素価は油脂化学便覧 改訂第3版 と MY CARRIER OIL BIBLE から。
INS値は鹸化価とヨウ素価の平均値から算出。
クリックすると少し大きい画像が開きます。
油脂の名前が出典の本の通りなのでちょっとわかりにくくてごめんなさい。
FBページ HandmadeSoapくまま でも石鹸近況など書いてます。
いつも応援ありがとうございます。
オリジナルと思われる文献
The history of the manufacture of soap
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00033793900201191
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こんにちは
昨日、京都でTAOさんの講座を受けていてINSのことが話題に上ったので
解説していただいて、嬉しいです。
ありがとうございます。
by ecru1 (2012-05-17 23:31)
■ecru1さん
それは偶然! よかったです。
耳慣れない値なのでさっくりスルーされるのではと思ってました。
まあ、それほど役に立たないのですが。。。
by ゆりくま (2012-05-18 22:57)