石鹸水に酸を入れると [石けんまわりの化学(13)]

手作り石けんの過程で起こるいろいろな現象を少しまじめに考えてみるシリーズ

ご意見、ご感想はお気軽にコメント欄にお寄せください。わかりにくいことも極力補足できるようにいたします。

ミョウバンを石鹸に入れるとどうなるか?(理屈編)(実験編)という記事からの派生で、一般的に酸を石けん水に入れるとどうなるかについてまとめておきます。

■石けん水に酸を入れると・・・



石けん水(市販の台所用液体石けん・カリ石鹸)を10倍程度に希釈したものに、食酢(穀物酢)、クエン酸水、ミョウバン水を加えた写真です。酸性のものと混ざると石けん水が白濁するのが分かります。


生成した白い懸濁物は量が多いと試験管に付着するほどです。

この白い物体は「酸性石けん」です。


■酸性石けん

石けんが水に溶けているとき、一部の石けん成分(R-COONa)は加水分解して脂肪酸(R-COOH)と水酸化物イオン(OH-)が生じ、石けん水は弱アルカリ性になります。

R-COONa + H2O ←→ R-COOH + [Na+] + [OH-] ・・・ (式1)

またこの分解で生じた脂肪酸は石けん成分と結合して酸性石けん(R-COOH・R-COONa)になります。

R-COOH + R-COONa ←→ R-COOH・R-COONa ・・・ (式2)

(乱暴ですが) 式1と式2を足すとこんな感じ

2 R-COONa + H2O ←→ R-COOH・R-COONa + [Na+] + [OH-] ・・・ (式3)

この反応は可逆的です(式の右と左の状態にそれぞれ進んだり戻ったりできる)。可逆的に動くことで系内のpHバランスを取ろうとします。
例えば石けんより強いアルカリ成分を加えて多量の[OH-]が入ってくると、上記の式は左、つまり[OH-]を減らす方向へ動くため酸性石けんとして存在する量が減ります。
逆に酸性の成分が加わったり、汚れの洗浄によって石けん水の濃度自体が薄くなったりすると右へ進んで酸性石けんの量が増えます。

酸性石けんはベタベタした不溶物です。石けん水の濃度が濃くpHが適性に保たれていればごく少量が存在するだけですが、汚れに対して石けんが不足していたり、すすぎの手順が悪くてごく薄い石けん水に浸かった状態になると発生した酸性石けんが食器や髪、洗濯物、肌に付着してベタベタになります。たっぷりの石けんでの洗い直しが必要です。
※石けんシャンプーでこのような状態になったときには酸性リンスでは効果がありません。リン酢はキシキシの原因になる金属石けんに効果的です。酸性石けんの場合は手もベタベタになりがちなので判断できると思います。


■アルカリ助剤と酸性石けん

前の記事で「リキッドソープの素を希釈するときにクエン酸を入れてもにごらないが?」というご指摘をいただきました。
この作業でクエン酸を加える目的は過剰・未反応の苛性ソーダを中和することで、入れる量もごく少量です。苛性ソーダの中和に必要な量より多く加えれば酸性石けん生成の原因になり、入れすぎると上の写真のように白濁してしまいます。

下は、苛性ソーダはちょっと面倒だったので過剰のアルカリとして炭酸ナトリウム(炭酸塩、ソーダ灰)を加えた石けん水にクエン酸水溶液を加えていった様子の写真です。濃度や量を全く計算していないので数字には意味がありませんが、いちばん左は石けん水(炭酸塩入り)、次に、その石けん水に左から順に5滴、20滴、35滴のクエン酸水を加えたものです。

炭酸塩入り石けん水にクエン酸水を加えると、滴下した瞬間は白い酸性石けんが発生しますが、振り混ぜると消えて透明に戻ります。クエン酸をだんだん増やしていくとそのうち透明には戻らず白濁が残るようになります。右から2番目は目視で白濁が始まったなというあたりです。



このように石けんより強い過剰のアルカリがあれば、酸はまず過剰のアルカリ成分の方を消費します。
この働きによって、洗濯石鹸や油汚れ用のキッチンソープにアルカリ助剤として炭酸塩を配合していれば汚れ成分によるpHの低下で酸性石けんが生じるのを防いでくれます。

試験管と一緒に並んでいるのはpH試験紙です。
黄色いのがフルレンジ(pH1-14)、緑のがユニバーサル(pH1-11)
写真ではどちらもよく分かりませんが、クエン酸投入前の炭酸塩入り石けん水はpH10以上、完全に白濁しているものはpH8-9程度に下がっているようです。


※色見本が丸いほうがフルレンジ(黄)、横に並んでいるのがユニバーサル(緑)
※この2種類のような測定範囲の広い試験紙の場合、誤差がpH1以上あってもおかしくないのでゆるい気持ちでみてください。


以上~

【参考】
石けん百科 理論編 石けんと酸性石けん
http://www.live-science.com/honkan/theory/sansei.html