エタノールを使ってインフューズドオイルを作る方法、いわゆるウルトラ抽出法。
主に緑の石鹸を作る時に大活躍しています。
原本からの引用記事を以前に紹介していますが、何回かやってみて色々思うところもあったので、手順の再掲と失敗事例写真の紹介をしておきます。
だらだら書いていたら長文になってしまったので2回に分けることにします。
その1 :手順の再掲、思うところ ※文字ばっかりです
その2 :失敗事例 ※やっぱり長文です
ウルトラ抽出 ローズマリー石けん
■エタノールを使うインフューズドオイルの利点・石鹸用オイルとした場合の欠点■
【利点】- 水溶性の成分も抽出される(といわれている)
- 濃い抽出油が得られる
- 冷浸法に比べて格段に抽出速度が速い
私は濃いインフューズドオイルを手早く得られる方法と捉えています。
【欠点】(主に石鹸作成上の視点から)- エタノールを飛ばす作業が手間
- 残留エタノールが鹸化促進剤として働き、コールドプロセスではアルカリ水を加えたとたんに固まるような事態に陥りやすい
悪い点2つ目を如何に緩和するかがポイントになろうかと思います。
ホットプロセスで作成する時やそもそもエタノールを使う液体石鹸では欠点になりません。
もちろんスキンケアに使う分にも(エタノールに弱い人でなければ)さほど問題になりません。
コールドプロセス石けんに特有のやりにくさということですね。
■抽出手順■
参考図書(最下部参照)の方法をベースに、若干私のアレンジが入っています。
【材料】 | オイル200gあたり → 完成オイル170-180g程 |
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抽出用ドライハーブ | 20g (適量でよい.。できれば粉末、あるいは粉砕する) |
無水エタノール(局方) | 20g (ハーブと等量が目安だが湿る程度の少なめで十分) |
アンモニア水(局方) | 1-2滴 (なくてもよい) |
好みのキャリアオイル オリーブ油、ひまわり油など | 200g |
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【道具】 | |
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抽出用の蓋つき瓶 | オイルとハーブが入るサイズ |
スプーンやマドラー | 瓶の中を混ぜ合わせるため |
湯煎用の道具 | 鍋、ガラスボウル、攪拌用のヘラや泡立て器 |
ハーブを漉す道具 | 受ける容器、漏斗、ガーゼ、お茶パックや油こし紙、コーヒーフィルターなど |
【手順】
★エタノールに漬けてオイルを注ぐまで
1) | できれば電動ミルやすり鉢でハーブを粉砕しておく。表面積が大きいほうがよく抽出できる。 |
2) | 無水エタノールを取り分け、アンモニア水1-2滴を混ぜ合わせておく(アンモニアは無くてもよい) |
3) | ハーブを蓋つきの瓶に入れ、無水エタノールで湿らせる。液体が吸い込まれないで溜まるようなら全量入れなくてもよい。スプーンなどで軽く混ぜかえして濡れていないところが無いか確認しておく。 |
4) | 蓋をして6時間以上(一晩程度)置いて染みこませる。 |
5) | ハーブの瓶にオイルを注ぐ。ハーブをオイルの中で泳がせるようにかき混ぜておく。 |
カレンデュラ 浸し中
★エタノールを気散させ、ハーブを漉す工程 (2通り紹介)
方法A)低めの温度でゆっくりエタノールを飛ばし、ろ過する(参考図書で推奨の方法)
6A) | オイルとハーブを口の広い容器(ボウルなど)に移す。 |
7A) | 50-60℃の湯煎にかけ、エタノールが放散するまでよくかき混ぜる(ゆっくりでよい)。温度が上がり過ぎないように気をつけて、最低1時間くらいは必要。 |
8A) | 少し冷ましてからハーブを漉す。オイルが温かいうちが漉しやすい。最後はぎゅっと搾ってできるだけオイルを回収する。 |
※(追記)この方法でじっくり飛ばした後、最後に80℃弱まで温度を上げてから止める、というテクニックをpiroriさんから教えていただきました。これだと高温にする時間が短いうえに確実性が増しますね。piroriさんありがとうございました。※
方法B)熱をかけて一気にエタノールを飛ばし、ろ過する(せっかちな人向き)
6B) | オイルを口の広い容器に移すか、蓋を開けた瓶のまま80℃~グラグラ沸騰しない程度の湯煎にかける。時々かき混ぜる。 |
7B) | オイルの温度があがってくると70℃を過ぎた頃からエタノールが蒸発してしゅわっと気泡が発生し始める(エタノールの沸点は78℃)。 気泡が一段落しても攪拌しながら10-20分くらい湯煎は続ける。 |
8B) | 湯煎後 荒熱が取れたらハーブを漉す。オイルが温かいうちが漉しやすい。最後はぎゅっと搾ってできるだけオイルを回収する。 |
方法Bで一気に温め中 →
- 方法A、方法Bともに、湯煎の前にハーブを漉してしまってもよい。そのほうがエタノールの残留は少ないと思う
- 湯煎の時のオイルの容器はできるだけ広く浅くオイルが張れるものが良い。深いと底の方は蒸発できない
- 特に方法Bでオイルの温度の上がり方が早いと急にエタノールの蒸気が発生するので吸い込んだり引火したりしないように注意。湯煎のお湯を沸騰させない程度に
- ハーブに残る分があるので、上記の分量ではオイルに溶け出ているエタノールは(オイルに対して)10%未満。実際に湯煎前後での重量変化を見ると5~7g程しか減量しない
- オイルの温度が上がりすぎるため、直火は推奨しない。低温の設定ができるIHヒーターは便利かも
- 時間をかけて少量を揮発させるためエタノール蒸気への引火の危険は少ないが(日本酒の煮切りと同程度?)、オイル自体も可燃性・引火性であるため火の取り扱いにはくれぐれも注意のこと
■石鹸にするにあたって■
大変濃く抽出されているため、上記で得られたオイル(170-180gくらい)を500gバッチに希釈して使うのでも十分。
残留エタノールが鹸化を促進する可能性があるが、これは避けがたい。できるだけショックを緩和できるよう、以下の注意&準備を!
【レシピ】(慣れるまでは、という程度)- ひまし油、米油など、トレースの早いオイルを配合するのは避けたほうが無難
- 牛乳などタンパク質系のオプション、お酒なども加速の危険が増すので避ける
- 下で推奨している低い温度での作成をするならバター類やミツロウも使いにくい
- デザイン石鹸にしようとしても玉砕する可能性あり。多くを望まないように
【事前準備】- 何かあってもすぐに型入れできるよう、型の準備、精油のブレンド、粉物オプションの水溶きなどは事前に済ませておく
【ぐるぐる開始~保温】- オイルも苛性ソーダ水溶液も温かさがなくなるまで冷ましてからスタートする。20℃くらいでも問題なし
- 攪拌は泡だて器でなくシリコンのヘラなどにしておくと進行が緩やか。また万が一のときに気泡ボコボコになりにくい
- 軽くトレースかな?から固まってしまうまでが非常に速いので、オプションは早めに投入し、さっさと型入れする
- どんなに高速高温の型入れになっても、型入れ後は速やかにしっかり保温すること。覗くの厳禁。次回の失敗事例参考に
■素材に関する経験と考察■
【ハーブ】
もともと脂溶性の色素や精油成分、例えば緑茶やローズマリー等の緑のハーブの葉緑素、カレンデュラやローズヒップのオレンジ色(カロチノイド系色素)、精油分の多いラベンダーの香りなどは非常にすばやく濃く抽出できます。
反面、水溶性の色素や香り成分はほとんど抽出されてこないと感じています。赤や紫のアントシアニン系が出せるとうれしいのですが、ラベンダーを抽出しても緑色になりますし、ローズレッドは薄黄色?くらいにしかなりません。またローズの香り成分はほとんどオイルに移らず、漉した後のハーブのほうが良い香りを放っていました・・・。(ローズの精油成分は水に溶けやすく、そのため水蒸気蒸留での採油量が少なく、逆に良質の芳香蒸留水が得られるとのことです)
←ローズマリーと緑茶 ←ローズレッド
その他で比較的香りが出たのがジャスミンフラワー、オレンジフラワー。
カモミールも香りのほうはかなりいけるのではないかと想像しています(あまり好きな香りではないのでトライできず)。
花弁や柔らかめの葉など、エタノールをよく吸うものは比較的失敗しにくいと思います。
オレンジピールのような固くて膨らまない素材はエタノールが吸われずに余るため、入れすぎに注意です。
試したい素材はたくさんあるのですが一人ではなかなかこなせません・・・。こんな風になったよ、という事例があれば成功・失敗問わず教えていただけるとうれしいです。(ウル抽リンク集または写真集などができるかも?)
【アンモニア水】
参考図書で使われていますが、何のために使うのか書かれていないので不完全燃焼でした。
色々調べていくと、植物の有効成分抽出ではアルカリ性で行われる事例が比較的多いことが分かってきました。したがってアンモニア水はエタノール抽出の効率を上げるアルカリ剤として加えられているのだろうと推測しています。
まあ、分析できないので有りと無しの違いは分かりませんが。
【オイル】
石鹸のメインオイルにするものならどれでも使えるのですが、低温・短時間でも熱をかけることが心配ならオレイン酸系のオイルが無難かも知れません(オリーブ、ハイオレひまわり、ハイオレ紅花、椿、茶、など)。
私は精製オリーブやハイオレひまわり油をよく使っています。これはメインオイルとしてたくさん使うということと、ハーブを引き立たせるためには癖のないさっぱりしたオイルがいいなという観点からの選択です。
でもオイル漬けで放置しないので、溶解したココナッツ油やパーム油でもよく抽出できるかもしれませんね。。。
[その2: 失敗事例に続く]
(2010.7追記) ティンクチャーとウルトラ抽出についてまとめました。
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長文になってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。
新たな発見があったら適宜追記・修正して行きたいと思います。
■参考図書など■
エタノールを使うインフューズドオイルの作成方法は米国薬局方Ⅳ(1947)に収載されており、手作り石けん界ではneroliさんがウルトラ(?)抽出法と名づけて紹介されたことで広まりました。
米国薬局方Ⅳ(1947)を元にした、オリジナルの方法は下の本に紹介されているものです。
The Herbal Medicine Maker's Handbook: A Home Manual