「固まらないんです」-ジェル化にまつわるトラブルシューティング- [石けんまわりの化学(9)]

石けんつくりの過程で起こるさまざまな現象を少しまじめに考えてみるシリーズ。

ちょっと間が開きました。。。
ご感想、ご意見ご要望も お気軽にコメントくださいませ。今後の参考にさせていただきます。


Q:「保温箱から出してみたら石けんがゆるゆるで型出しできません。何日待っても固まりません」

A:「ジェル化ではないでしょうか。そのうち固まるので型出しできるようになるまでゆっくり待ちましょう」

なんていう事件は割とよくあるようです。

しかしこれが、なかなか固まらないのです~。表面だけは少しずつ乾いていくのですが型に触れている面や中のほうは全く固まる気配を見せず、押すとぷよぷよしていて指が刺さってしまいそうです。

そんなときの対処法は型ごと冷蔵庫に入れて冷やすことです。
冷蔵庫で芯まで冷やすと半透明だった石けんが不透明になり、型出しできるようになります。

※保温箱に入れてから1~2日以上経っていて室温まで冷めているのにいつまでも半透明のまま、というトラブル石けんに限った対処法です。まだ反応の途中で温かい石けんを冷蔵庫に入れたりしないでください。(中から発熱しているので、あわてて外から冷やしても中心部のジェル化は阻止できません)

▼固まっていない石けん
型を傾けるとどろっと動く・・・
▼1週間後
表面の乾燥が進むのみ


▼冷蔵庫から出したところ▼中まで固まっています




以下 説明---------------

しっかりジェル化した石けんがなかなか固まらない。これは「過冷却」という現象で説明できます。

過冷却とは、物質の温度が凝固点(つまり凍る温度。純物質の場合は融点と同じ)を下回っても固体にならず、液体の状態を保っているときに使われる言葉です。
物質が凍り始める時にはまず液体の中に微小な核ができ、その核を中心に固体結晶が成長します。しかしゆっくりゆっくり静かに温度を下げていくと核が形成されにくく、固体になることを忘れてしまうのです。そこに物理的な衝撃を与えてやったりすると一瞬で固体化するのですが、これは水で簡単に観察できる現象のため、よく理科の自由研究のネタになります。


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【自由研究】水の過冷却の観察
  1. 500ccのペットボトルをよく洗って一度精製水ですすぐ。

  2. 8分目まで精製水を入れ、キャップを締める。

  3. エアクッションやタオルで巻くかやペットボトル用の保冷袋に入れ、立てて冷凍庫に入れる。

  4. そのまま4-5時間冷やす。この間冷凍庫の開閉はしないこと。できれば冷蔵室のドア開閉も避ける。

  5. ペットボトルをそっと取り出す。以下のような方法で瞬時に氷になるのを観察できる

    ・テーブルや床に瓶の底をドンッと叩きつける。

    ・冷やしておいたお皿に中の水を静かに注ぐ。

    ※「叩きつけ法」を応用すると、お出かけ用にしっかり凍ったお茶を作ることができます。

    ※お皿に注ぐ方法はこちらに実験動画がありました http://www.nawa-link.net/supercooling/
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さて、話を石けんに戻します。

[石けん周りの化学(7)][石けんまわりの化学(8)]で石けんのジェル化は「液晶化」であると説明しました。
石けんも液晶状態から固相に相転移する際に顕著な過冷却現象が出現することが知られています。特にオレイン酸ナトリウムでは粘性の高い液状、ゲル状になるとのことです。

通常、保温中にジェル化(液晶化)した石けんも、鹸化反応がほぼ終了して温度が下がる過程で固相に変化します。温度が下がる過程はまだ保温箱の中ですから急冷や衝撃を与えられることはなく、十分な保温がされていればゆっくり何時間もかけて室温までさがります。ここで固まりにくい脂肪酸組成や含水量、冷却速度などの条件がうまく重なり合うと、石けん生地が固相に変化することを忘れてゆるゆるで半透明の液晶状態を保ってしまうのです。

このゆるゆる石けん生地に何か手を加えて固まることを思い出してもらわないといけないのですが、いくらゆるゆるとは言っても水のようにサラサラ流れるものではないので叩いたり注いだりというわけにはいきません。そこで冷蔵庫に入れて過冷却の限界点よりもっと冷やすことで固めてしまおうというわけです。
そもそも室温では固形であるのが通常の状態なので、一度低温で固まってしまえば室温に戻してもゆるゆるに戻ることはありません。後はいつもどおり型出し、カット、乾燥の工程に移ることができます。


参照---------------
■過冷却. (2008, 9月 23). Wikipedia, . Retrieved 13:42, 11月 21, 2008 from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%81%8E%E5%86%B7%E5%8D%B4&oldid=21936307.
■「新版 脂肪酸化学 第2版」 稲葉恵一 平野二郎 編著, 幸書房 (1990)