写真 :ピンボケしている部分ですいません
△柚子皮とオレンジフラワーの石けん。
わかりにくいですが、上のレイヤーの外周が白くなってポソポソです。下のレイヤーには劇早モタモタ型入れだったための気泡(というより隙間)がバッチリ。
△月桃の石けん。
両側面が白くなっています。左の写真はカット直後。カット時にぼろぼろ角が崩れ気味。
右の写真は熟成後で、この頃には白いところもそれなりに落ち着いて(張り付いて)います
この白いところは粉っぽい石けんです。
中心部は普通の石けんなのに外側が保温不足の時と同じようなもろい石けんになるのです。同じようなということは、やはり保温不足気味だったということでしょうか?激早のトレースで非常に高温での型入れになっているはずなのに。
何故こんなことになるのか、について少し考察してみます。
【考察】なぜ劇早トレースでポソポソ石けんができるのか
コールドプロセスというのは「熟成中に外から熱を加えない」方法ですが、鹸化反応が十分に進むためには温度が必要です。その温度を維持するのに必要な熱は自身の反応熱でまかないます。
理想的なコールドプロセスでは攪拌されない(型入れした)タネの中での反応は比較的ゆっくり進み、熱がゆっくり供給され続けます。そのため保温がしっかりできていればタネは冷えすぎず、熱くなり過ぎずの温度を比較的均一に長時間保つことができます。そして反応すべきものが少なくなって熱の発生が少なくなるにつれてゆっくりゆっくり温度が下がっていきます。この「適温を保つ・ゆっくり冷める」ところが重要です。
温かい状態で保たれることにより、タネの中では鹸化反応が十分に進みます。そして反応が中盤を過ぎて温度が下がっていく間にはゆっくりと石けん結晶の成長が進みます。結晶とは分子がある規則性をもって整列し、何分子かで1つの塊を作ることです。
つまりタネの中では第1ステップとして鹸化反応で石けんの分子が生成し、第2ステップで石けんの結晶を作る運動が起きているのです。
(ゆっくり冷却と大きい結晶の関係は「大きな氷砂糖を作る」実験としてレポートされていることが多いので、興味のある方は検索してみてください)
さて前置きが長くなりましたがようやくウル抽ポソポソ石けんに戻ります。
この端っこのポソポソ部分、これは明らかに「中心部に比べて結晶成長が進んでいない→したがって粉っぽい」状態です。
激早トレース石けんはエタノールで鹸化が促進されて反応が進み、本来何時間もかけてじわじわ放出すべき反応熱を非常に短い時間で一気に吐き出してしまいます。
型入れ時にはすでに温度が上がっていますが、なまじ温度が高い分だけ特に型の外側に近い部分では放熱も大きく、内側からの熱供給もすぐになくなってしまうので、急激に温度が低下します。そのために放熱で温度が下がりやすい外側は滑らかな結晶を作るだけの時間的な余裕が無く、粉っぽくしまりのない石けんになると考えられます。外側に比べて熱が逃げにくい内部はそこそこちゃんとした固形石けんになります。
上の写真でいうとオレンジ色の石鹸。後入れした上のレイヤーで、空気に開放された上面から側面にかけてが顕著に白くなっているのが分かります。下のレイヤーも激早だったのですが、まだ温かいうちに上の層が入って温度が保たれたため、ポソポソになるのは避けられたようです。
木型にオーブンシートを敷いていて、型出しの時には石けん上面が白くなっており側面もすでに紙がはがれかかっていたので、乾燥が始まっていたものと思います。
緑の月桃石けんは透明アクリルモールド(横)を使っていたので型出し前の状態が見えていました。
型出し直後は緑色でしたが、しばらく乾燥させると側面が白っぽくなってきました。
写真には無い長方形の短辺にあたる面、いわゆる端っこが最も白い部分が厚くて脆く、意外なことに上面はそれほどでもありません。型をしっかりくるまずに保温用のタオルを上から乗せたような格好で箱に入れていたため、端っこの保温がイマイチだったのかもしれません。
劇早トレースでボウルの中で一気に高温になるのを避けるための方法、「その1」にも書きましたが、
- エタノールを入れすぎない
- 念入りにエタノールを飛ばす。この工程だけは手を抜かないで。
- 苛性ソーダ水、オイルとも比較的低温で混ぜ始める。(20℃くらいまでOK)
また、仮にトレースが早くて温度が上がってしまっていても、恐れずにしっかり保温してできるだけ温度を維持することが必要です。
△室温(20℃弱)からグルグル開始した緑茶ウル抽石けん。
ひまし油入りですが、余裕を持って型入れできました。といっても開始10分くらいですけど。
★びっくり事例
温度が上がりすぎて?、途中とんでもない色になったローズマリーウル抽石けん
ローズマリーの抽出油はぐるぐる中にやや遅れてタネが赤くなることがあります(普通は混ぜている間にだんだん緑に戻ります)。
この石けんのときはぐるぐる中には色変化はなく(緑色)、カットしたら中が赤くてびっくりした!
あまりにトレースが早かったのでローズマリー由来の成分が変色するよりも前に型入れしてしまったということなのでしょうね。
中の色が落ち着くのに2週間以上かかりました。
それでも保温はうまくいっていたらしく、見た目ボコボコだけど切り口は滑らかな石けんになりました。
※防腐剤として苛性ソーダと合わせる前のオイルにROE(ローズマリー抽出物)を数滴入れることが多いのですが、これも一瞬赤くなるのが見えることがあります。
おまけ----------------------
温度が低い、あるいは急令されるとと結晶がうまく成長しないという話を書きました。
すでにお気づきかもしれませんが、これはマットな石けん・ジェル化石けんの差、また透明石けんにも通じる話です。
はじめに透明石けんは、小さい結晶や非結晶の石けんに糖分などの透明化剤がきれいに分散している状態です。作り方の中で「タネを冷蔵庫に入れて冷やす」という手順が紹介されることがありますが、これはゆっくり冷却すると結晶が大きくなって不透明になることがあるためです。
保温中のプルプルしたジェルステージは水と石けん分子がある濃度と温度の範囲で形成される液晶状態で、それが冷える過程で大きな結晶を形成していると考えられます。しっかりした結晶の石けんは分子の方向がそろっているので屈折の方向がそろい、透明性を帯びて見えます(透明とは違います)。また溶け崩れしにくいです。逆にマットな石けんは結晶が小さく、乱反射するために不透明に見えます。そして水分の多いところで膨潤して溶け崩れしやすくなります。
ジェル化するにはよく言われるように温度の高さの影響がありますすが、どちらかというと適当な温度が持続すること、他にも脂肪酸組成や水分の微妙なバランスが関係すると考えられます。
この考察は長くなりそうなのでまた別の機会にできればと思います。
ちなみに、鹸化促進されて一時的に高温になっているであろうウル抽石けんですが、意外なことにほとんどジェル化しません。
高温が長時間持続しないためジェルステージにまで到達できないのでしょう。
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またまた長文におつきあいいただきありがとうございました。
今後もびっくりするような事態に陥ったときこそあわてず騒がずおちついて写真を撮って、是非披露したいと思います!