前の記事で紹介した鹸化反応速度のデータ(グラフ)の見方について、
コメント欄でご質問をいただいたので少々補足します。

鹸化反応の速さ(3)-マニアックス- [石けんまわりの化学(5)] の記事も合わせて参照ください。


■添加物の影響

実験データではおそらく鹸化促進剤としてアルコールや遊離酸を添加しています。
アルコールを加えると反応速度が増し、誘導期間が短くなります。ぐっと立ち上がりが速くなる感じです。
遊離酸を加えると苛性ソーダと直ちに反応するためにやはり誘導期間が短くなりますが、この場合は標準のグラフを左へ平行移動したような形、つまり「遊離酸の分は反応済み」の点からスタートすることになります。



■油脂の種類の影響

引用した実験データは同じ温度条件でのヤシ油と鱈肝油のものです。
鱈肝油は不飽和脂肪酸が多い油になるので反応が遅く、苛性ソーダの濃度や過剰率を上げてもヤシ油より誘導期間が長く、反応率30%以上の直線部の傾きも緩やかです。



なお、引用元の鱈肝油のデータで、濃厚な苛性ソーダ水溶液を使った場合に反応が極端に遅くなっている線があります。これは苛性ソーダによって塩析が起こり、生成した石けんによる乳化が妨げられているためと考えられます。


■(おまけ)温度はどう変わるのか

鹸化反応で発熱してタネの温度が上がる様子をシミュレーションしてプロットしてみました。
外気温、比熱等を適当に一定条件とした場合の例です。
あくまでシミュレーションなので絶対値ではなく相対的にみてください。
ほぼ保温されていない場合と反応率が20%くらいのところから保温した場合。あるいは20%くらいのところで撹拌を止め型入れした後の石けんタネの外側と中心部と見てもよいかもしれません。
保温すると後半まで温度をある程度維持できる効果が大きいことがわかります。ピークの温度上昇の差ははさほどでもないですね。反応をできる限り100%に近く追い込むにはしっかり保温することが重要です。