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脂肪酸の形 [石けんまわりの化学(1)] [├ 用語・材料・化学っぽいこと]

※石けん作りの過程での様々な現象についてちょっとまじめに考えてみるシリーズ。
はじめはひたすら「ジェル化」にまつわる話を追究するつもりだったのですが、長くなってなかなか核心に迫れないため、豆知識的に独立できる話題を分けることにしました。


■脂肪酸の形

石けん分子とは、C12~C18程度の直鎖脂肪酸のナトリウム塩です。
脂肪酸は炭素が1本の線状に11~17個つながった長い分子の端っこにカルボン酸[-COOH]が付いていて、石けんはカルボン酸がナトリウム[Na](あるいはカリウム[K])と塩を作って[-COONa]の形になっています。-COONaの部分は親水性であるのに対してC11~C17の炭素鎖の部分は疎水性のため、界面活性剤としての機能を有します。

ここで代表的なC18の脂肪酸を模式的に図で表します。
※ちゃんとしたツールを使って描いていないので角度が甘いことなどはご容赦ください。
※基本的に炭素[C]のラベルと炭素に結合している水素[H]の結合線とラベルを省略するルールで描いていますが、着目したいところだけラベルをつけています。線の折れ曲がった部分に[C]がいます。

図1)ステアリン酸(例) 飽和脂肪酸
ステアリン酸.jpg
図2)オレイン酸(2例) 不飽和脂肪酸
オレイン酸.jpg
オレイン酸2.jpg
図3)リノール酸(例) 多価不飽和脂肪酸
リノール酸.jpg

炭素鎖の部分に着目してください。

炭素には結合に使うことのできる手が4本あります。飽和脂肪酸のステアリン酸はすべて一本の手で隣の炭素とつながっていますが、不飽和脂肪酸のオレイン酸、リノール酸は途中に二本の手をつないでる場所があります。この部分が不飽和結合です。飽和とはもうこれ以上水素と結合できる手が空いていない(水素が飽和している)という意味で、逆に言えば不飽和結合部分には片手を離して水素と結合する余裕があります。しかしこの「空けることのできる手」つまり反応しやすい場所を狙っているのは水素だけではありません。(そもそもさくっと反応できる形の水素は身の回りに大量に存在しているものではありません)。普通の生活環境では活性酸素などに狙われて酸化してしまう可能性のほうが圧倒的に大きくなります。

炭素同士をつないでいる手が一本であれば結合箇所はその手を軸に自由に回転することができます。しかし二本の手をつないでいる場所では軸を中心に回転することができません(手をねじることはできません)。
例としてオレイン酸の図を2つあげてあります。一本の手の結合箇所では回転することで折れ曲がる方向が変わり(実際には3次元で)、長くなったりコンパクトに折れたような形になったりできますが、二本の手の不飽和結合部分は常に同じ角度に固定されたままでステアリン酸のようにまっすぐになることはできません。この「折れ曲がっていること」も石けんのでき方や性質に影響を与える重要なポイントです。

難しいですか?
長い部分は基本的にグネグネと形を変えられるのだけど、不飽和脂肪酸は途中に不飽和の数だけ節があって、節のところだけは固くてまっすぐに伸ばすことができないとイメージしておいてください。


余談になりますが、不飽和結合につながる炭素鎖の位置よって「シス体」「トランス体」という呼び方があります。シス体は炭素鎖が不飽和結合に対して同じ方向(隣)にあり、トランス体は反対側(斜め向い)にあります。天然に存在する脂肪酸は圧倒的にシス体が多いとされています(含有カロリーが高いことと関連があると考えられているそうです)。牛などの反芻動物の脂質には比較的多めのトランス脂肪酸が含まれています。また不飽和脂肪酸を持つ油脂を水素化してマーガリンやショートニングを作る時の触媒の影響や、油脂精製・長時間の加熱調理などで高温に晒されることでシス体がトランス体に変化してしまうことがあります。(家庭で石けんを作る程度の加熱でどんどん変化することはありません)。

図4)シス体とトランス体
シス体
cis.jpg
トランス体
trans.jpg



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コメント 4

よこやん

ゆりくませんせ~。こんばんわ~。
脂肪酸についての基礎講座ですねぇ。

私は食品が専門なので、体にいい油(酸化しない)、悪い油(酸化する)という切り口で油のことは知識があります。

石けんについては洗い心地(使用感)?になるのでしょうか?
続きを楽しみにしています~~。きゃ~~。
by よこやん (2008-08-26 21:30) 

ボコ

ううぅ。
半分も理解出来ない、オバカな私です~。
でも全く知らない事なので、興味深いです!
こうして模式図で見ると、一言に脂肪酸と言っても
色んなタイプの奴らが居るのですね~。
使う油の組み合わせで、結合の仕方が違う=使用感に
繋がってくると言うのも、なんとな~くですが
納得出来た気がします。

次回もご教授お待ちしてます。
by ボコ (2008-08-26 23:18) 

ゆりくま

■よこやんさん こんばんは。
鹸化反応やジェル化などの状態変化のことを書こうとするとどうしても分子の形や専門用語に引っかかってしまって発散気味になってしまうので、基礎知識講座的に分けていくことにしました。
そのうち核心に迫れるのではと思います。

私 実はバケガクは専門じゃないので結構必死です。
おかしなこと書いてたら指摘してくださいね(汗)
アンド使用感オンチなので・・・ 客観的に観察できる話に終始してしまうと思います。
by ゆりくま (2008-08-26 23:21) 

ゆりくま

■ボコさん
そうですよね~。どうしても簡潔に説明できなくて申し訳ないっす。
この時点ではこんな風に曲がっているんだよということをもやっとイメージしてもらえればいいのかなと思ってます。

by ゆりくま (2008-08-27 00:00) 

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