塩析と、汗をかく石けん [石けんまわりの化学(15)] [├ 用語・材料・化学っぽいこと]
塩析と、汗をかく石けん [石けんまわりの化学(15)]
手作り石けんの過程で起こるいろいろな現象を少しまじめに考えてみるシリーズ
ご意見、ご感想はお気軽にコメント欄にお寄せください。わかりにくいことも極力補足できるようにいたします。
写真は塩析キッチンソープです。
ナチュラルキッチンでみつけたハーゲン○ッツのカップみたいなかわいい陶器に入れて固めました。
さて、先日いただいたメールの中にこんな質問がありました。
「塩析では石けんと塩化ナトリウムの何が反応しているのでしょうか?」
(こう抜き出して書くと唐突な感じですが、実際には前後にいろいろあってのことです)
そういえば今まで塩析とはなんぞやということについてあまり触れていなかったように思います。
塩析とは、「A + B → C」 のように何か別の成分に変化するような化学反応ではなく、物理的な作用に分類されます。
具体的には石けんが高濃度の塩の水溶液には溶けないという性質を利用して濃石けん液から石けん成分を分離する方法です。
科学の話の中では「塩」は「シオ」ではなく「エン」と読みます。
塩(エン)とは教科書的には「広義には酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンとがイオン結合した化合物」で、塩化ナトリウムは代表的な塩(エン)のひとつです。
石けん水溶液の中で石けん分子は多数の水分子と静電気的な力によって引付け合い「水和した」状態で溶けています。
ここに石けんよりもはるかに水和力の強い塩(エン)類を加えると、石けんに水和していた水分子が塩(エン)の方に引き寄せられるため、石けん分子は水和に必要な水分子を確保できなくなって析出してきます。
これが塩析の原理です。
(書いてしまうとこれだけのことです)
上の説明では検索されやすいWikipediaにしたがって塩(エン)と書きましたが、塩析について調べようとすると、塩(エン)ではなく、電解質によって、と書かれていることもあります。
塩(エン)とは非常に広義で、その中で塩析を起こすのは水に溶けて電離するもの(イオンになるもの)ですから、電解質という表現のほうが適切かもしれません。
このブログで3年ほど前にお鍋で塩析する方法を紹介し、今ではすっかりメジャーになりました。
方法もいろいろアレンジがあると聞いています。私自身のやり方も3年前に比べたらバージョンアップしているはず。たぶん。
でも実験心の度が過ぎたり、良かれと思ったことが裏目に出たり、慣れで気を抜いたために失敗したりと、いつも完璧というわけにはいきません。
上の写真の塩析石けんを作った時は、つい先週のことですが、ホットプロセスの温度を上げ過ぎて分離させてしまいました。
十分鹸化していない時に温度を上げ過ぎると石けんが粒状になって分離してしまいます。おそらく高温で石けんのミセルが壊れ、この時水側にはまだ水酸化ナトリウムが多く含まれているため塩析が起こって分離してしまうと考えられます。
こうなると分離してしまった石けんには残存している水相とオイルを乳化して鹸化反応を助ける働きを期待できないため、未反応分に対してはゼロから反応を始めるような形になり、反応が進んでタネが再びまとまってくるまでには非常に時間がかかります。
昔の工業的な石鹸製造の教科書でも、いきなり濃い苛性ソーダ水を使うと塩析で石けんが分離して反応が遅くなるため、薄い溶液で始めて途中で濃いものを足す、というようなテクニックが紹介されています。
↑ 最終的にはまとまってくるのですが、やはりなんだか分離気味。。。(塩析前提の廃油石けんで、苛性ソーダ過剰のためと思われます)
さらに、コールドプロセスの石けんで、保温箱から出してみたら汗をかいていたとか、拭いても拭いてもじわっと汗をかく、というような事件にも、一部には塩析が関係していると考えられます。
1)比較的塩析を受けやすい脂肪酸組成で
2)オプションに多くの電解質が含まれている(あるいはオプションの成分と苛性ソーダが反応して中和塩が生成していて)
これらの条件が重なった時、塩析が起こって分離した塩水が石けんから染み出してくるような状態になることが考えられます。
さらに保温中に高温になっていたような条件なら型の中が水浸しになることでしょう。
私自身はたくさんの塩を入れた石けんを作ったことはないのですが、じわじわ汗をかくCP石けんと塩分多めで塩析して水分を出し続ける石けんの状態は、汗のかき方も結果的に引き締まった石けんになるところも非常によく似ていると感じます。
塩析以外の塩の作用については、また別の機会にも触れていきたいと思います。
-------------------
引用
塩 (化学). (2011, March 6). In Wikipedia. Retrieved 06:46, April 29, 2011, from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A1%A9_(%E5%8C%96%E5%AD%A6)&oldid=36654919
塩析. (2010, April 12). In Wikipedia. Retrieved 06:47, April 29, 2011, from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A1%A9%E6%9E%90&oldid=31539794
手作り石けんの過程で起こるいろいろな現象を少しまじめに考えてみるシリーズ
ご意見、ご感想はお気軽にコメント欄にお寄せください。わかりにくいことも極力補足できるようにいたします。
写真は塩析キッチンソープです。
ナチュラルキッチンでみつけたハーゲン○ッツのカップみたいなかわいい陶器に入れて固めました。
さて、先日いただいたメールの中にこんな質問がありました。
「塩析では石けんと塩化ナトリウムの何が反応しているのでしょうか?」
(こう抜き出して書くと唐突な感じですが、実際には前後にいろいろあってのことです)
そういえば今まで塩析とはなんぞやということについてあまり触れていなかったように思います。
塩析とは、「A + B → C」 のように何か別の成分に変化するような化学反応ではなく、物理的な作用に分類されます。
具体的には石けんが高濃度の塩の水溶液には溶けないという性質を利用して濃石けん液から石けん成分を分離する方法です。
科学の話の中では「塩」は「シオ」ではなく「エン」と読みます。
塩(エン)とは教科書的には「広義には酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンとがイオン結合した化合物」で、塩化ナトリウムは代表的な塩(エン)のひとつです。
石けん水溶液の中で石けん分子は多数の水分子と静電気的な力によって引付け合い「水和した」状態で溶けています。
ここに石けんよりもはるかに水和力の強い塩(エン)類を加えると、石けんに水和していた水分子が塩(エン)の方に引き寄せられるため、石けん分子は水和に必要な水分子を確保できなくなって析出してきます。
これが塩析の原理です。
(書いてしまうとこれだけのことです)
上の説明では検索されやすいWikipediaにしたがって塩(エン)と書きましたが、塩析について調べようとすると、塩(エン)ではなく、電解質によって、と書かれていることもあります。
塩(エン)とは非常に広義で、その中で塩析を起こすのは水に溶けて電離するもの(イオンになるもの)ですから、電解質という表現のほうが適切かもしれません。
このブログで3年ほど前にお鍋で塩析する方法を紹介し、今ではすっかりメジャーになりました。
方法もいろいろアレンジがあると聞いています。私自身のやり方も3年前に比べたらバージョンアップしているはず。たぶん。
でも実験心の度が過ぎたり、良かれと思ったことが裏目に出たり、慣れで気を抜いたために失敗したりと、いつも完璧というわけにはいきません。
上の写真の塩析石けんを作った時は、つい先週のことですが、ホットプロセスの温度を上げ過ぎて分離させてしまいました。
十分鹸化していない時に温度を上げ過ぎると石けんが粒状になって分離してしまいます。おそらく高温で石けんのミセルが壊れ、この時水側にはまだ水酸化ナトリウムが多く含まれているため塩析が起こって分離してしまうと考えられます。
こうなると分離してしまった石けんには残存している水相とオイルを乳化して鹸化反応を助ける働きを期待できないため、未反応分に対してはゼロから反応を始めるような形になり、反応が進んでタネが再びまとまってくるまでには非常に時間がかかります。
昔の工業的な石鹸製造の教科書でも、いきなり濃い苛性ソーダ水を使うと塩析で石けんが分離して反応が遅くなるため、薄い溶液で始めて途中で濃いものを足す、というようなテクニックが紹介されています。
↑ 最終的にはまとまってくるのですが、やはりなんだか分離気味。。。(塩析前提の廃油石けんで、苛性ソーダ過剰のためと思われます)
さらに、コールドプロセスの石けんで、保温箱から出してみたら汗をかいていたとか、拭いても拭いてもじわっと汗をかく、というような事件にも、一部には塩析が関係していると考えられます。
1)比較的塩析を受けやすい脂肪酸組成で
2)オプションに多くの電解質が含まれている(あるいはオプションの成分と苛性ソーダが反応して中和塩が生成していて)
これらの条件が重なった時、塩析が起こって分離した塩水が石けんから染み出してくるような状態になることが考えられます。
さらに保温中に高温になっていたような条件なら型の中が水浸しになることでしょう。
私自身はたくさんの塩を入れた石けんを作ったことはないのですが、じわじわ汗をかくCP石けんと塩分多めで塩析して水分を出し続ける石けんの状態は、汗のかき方も結果的に引き締まった石けんになるところも非常によく似ていると感じます。
塩析以外の塩の作用については、また別の機会にも触れていきたいと思います。
-------------------
引用
塩 (化学). (2011, March 6). In Wikipedia. Retrieved 06:46, April 29, 2011, from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A1%A9_(%E5%8C%96%E5%AD%A6)&oldid=36654919
塩析. (2010, April 12). In Wikipedia. Retrieved 06:47, April 29, 2011, from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A1%A9%E6%9E%90&oldid=31539794
Facebook コメント
手作り石けん講座案内 |
FBページ HandmadeSoapくまま | クリック応援ありがとうございます |
コメント 0