手作り石けんが茶色くなる糖のはなし (その2 解説編) [├ 用語・材料・化学っぽいこと]
手作り石けんに入れると茶色くなるオプション材料のうち糖分に着目して、色が着く糖と着かない糖の違いと見分け方をご説明します。
ゆりくま説ですが、間違い無いと思います。
今回は 「その2 解説編」
いろんな糖で検証実験をした「その1 実験編」はこちらをどうぞ
乳糖と果糖の写真を追加しているのでできれば再確認ください
https://kumaguma-soap.blog.so-net.ne.jp/2018-08-30
「手作り石けんが茶色になる糖の話」の全記事はこちら
その1 実験編 https://kumaguma-soap.blog.so-net.ne.jp/2018-08-30
(本記事)その2 解説編 https://kumaguma-soap.blog.so-net.ne.jp/2018-09-09
その3 おまけ はちみつ編 https://kumaguma-soap.blog.so-net.ne.jp/2018-10-01
その4 おまけ 牛乳編 https://kumaguma-soap.blog.so-net.ne.jp/2018-10-13
上の写真はゴートミルクと塩麹を入れた石けん。
ブログの過去記事から発掘しました。牛乳入りを探したのですが見つからず。確かにあまり作った記憶がないです。
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実験記事の最後にこう書きました
・ブドウ糖、果糖。乳糖を含むものは着色し、
・ショ糖が主成分のものとトレハロース、エリスリトールは着色しない
・オリゴのおかげ、イヌリンは混合物なので要考察
混合物については以下のように考えています
▼オリゴのおかげについて、
オリゴのおかげという商品の主成分は乳果オリゴ糖ですが、他に乳糖とショ糖を含むとのことです。
このうち、乳糖は着色すること、ショ糖は着色しないことが分かっています
オリゴのおかげの着色成分の一つは乳糖といえます。
乳化オリゴ糖は純品の入手が難しそうなので実験確認できていませんが、着色成分ではないと推定します。理由は下記の解説の通りです。
▼アガベイヌリンについて
この商品はイヌリン(食物繊維)が主成分ですが、精製度が低い可能性があります。
製品パッケージによると、製品30g中、炭水化物28.4g(内、糖質2.1g、食物繊維26.3g)となっているので、2.1gのイヌリンではない糖質、また書かれていない1.6gの他の何かが含まれています。
写真ではわからない程度の着色で、着色成分はこのようななんらかの不純物によるものと考えています。
■□■ 茶色くなる糖の特徴 ■□■
では、いよいよ ゆりくま説の解説編です。
例によって、先に結論を書いておきます
★苛性ソーダに触れて茶色になるのは「還元糖」
★苛性ソーダに触れても茶色くならないのは「非還元糖」
「還元糖」とは糖の環状構造が開環して鎖状構造になった時にアルデヒド基やケトン基をもつもの(非還元糖はそうならないもの)、とかウィキペディアなどに書いてあるので詳しく知りたい方は調べてください。
ざっくりいうと、環状構造にこういう場所があるものです
or
環状構造の中のエーテル結合している酸素(ーOー)の、図では右隣の炭素に水酸基(ーOH)がついているもの
(この後の説明のために、この水酸基を「A水酸基」と呼ぶことにします)
還元糖は塩基性水溶液中でこの部分で開環してアルデヒド基またはケトン基を形成します。(ここまでは一般的な話)
そして、比較的反応性の高いアルデヒド基やケトン基は、その塩基性水溶液が(手作り石けんで使う苛性ソーダまたは苛性カリ水溶液のように濃厚な)強塩基水溶液中では複雑に重合して茶色に着色してしまうのです(ここがゆりくま説)
正確には「複雑に重合して」の部分だけがゆりくま説で、アルデヒド同士が塩基触媒で縮合するような反応はよく知られていてます。ただ、濃く着色するためには何度もくっついたり切り離されたりを繰り返して相当の大きさの重合体になっているだろうと考えるということです。
では実際に糖の分子構造を見てみます
▼実験で茶色になった糖(還元糖)
ブドウ糖 (グルコース) | |
果糖 (フルクトース) | 乳糖 (ラクトース) グルコース ×2 |
▼茶色くならなかった糖(非還元糖)
ショ糖 (スクロース) グルコース+フルクトース | |
トレハロース グルコース×2 | |
エリスリトール (糖アルコール) | |
イヌリン | |
乳果オリゴ糖 (ラクトスクロース) ラクトース+フルクトース | |
おまけ モグロシドV 羅漢果の甘味成分 |
ここで、ラクトースとトレハロースを比較してみると、違いがわかると思います。
両方ともグルコースが2つ結合した二糖類ですが、結合している場所が違います。
改めて並べてみます
乳糖(還元糖) | トレハロース(非還元糖) |
図のうち、左下に位置するグルコースは同じ向きです。
この左のグルコースと右上に位置するグルコースとの結合部分(ーOー)に着目してください。
トレハロースは、グルコースが還元糖であるという説明に出てきた水酸基(A水酸基)同士が結合しています。結合部分の炭素のとなりに環状構造中のエーテル結合の酸素が存在していますよね。
一方 乳糖では、左のグルコースのA水酸基と右のグルコースの別の水酸基が結合していて、右のグルコースのA水酸基は図の右上に残っています。
つまり、同じ「グルコース×2個の二糖類」であっても、グルコース中のアルデヒド基になり得る構造を失ったトレハロースは還元性を持たない非還元糖、片方のグルコースにその構造を残している乳糖は還元糖です。
そして還元糖の乳糖は苛性ソーダ水溶液で着色してしまうのに対し、トレハロースは非還元糖であるため、着色しないのです。
この視点で、着色した糖、しなかった糖(ゆりくまが着色しないと推定した乳果オリゴ糖やイヌリンも)を見てみてください。
エリスリトールはそもそも糖アルコールで糖ではないので、グリセリンと同様に着色しません。
おまけで記載したモグロシド(モグロサイド)はラカント(エリスリトール+羅漢果抽出物)の羅漢果抽出物側の代表成分ですが、これも同じように開環する構造を持っていないことがわかります。
オリゴ糖や食物繊維には実はたくさん種類があるので注意が必要です。
今回紹介した乳化オリゴ糖は非還元糖ですが、還元糖(例えばガラクトオリゴ糖)もあります。
イヌリンは非還元糖でしたが、ひょっとしたら還元糖に属するものもあるかも(調べ切れていません)。
いずれにせよ、あるオプションの中に含まれる糖分が何かがわかれば、その構造を確認することで、着色しやすいかどうかが予測できるようになります。
もう少し書きたいこともありますが、長くなるので一旦ここで区切ります。
最後、その3はオマケです。
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