[豆知識]ココナッツ油,パーム核油の低温劣化 [├ 用語・材料・化学っぽいこと]
食用油関係の書籍を何気にパラパラしていたら、気になる記述を発見しました。
やし油(ココナッツ油)、パーム核油は低温(試験条件は5℃,15℃)で保存すると、-20℃,+30℃(試験条件)よりも劣化するので取り扱いに注意しろ、ということです。
なんですとーー??
冷蔵庫保存している人、多いんじゃないでしょうか。これはよく読んでみなくてはいけません。
(先に書いておきますが、結論として手作り石鹸的には心配するような話ではありません)
一般的な固形油脂は安定性に優れていて、高温より低温のほうが良好だということがわかっています。低温劣化はラウリン酸系の油脂(多く使われるのがココナッツ油とパーム核油)に特徴的な現象なのだそうです。
ではどのように劣化するかというと、分析では「酸価」が上昇し、過酸化物価、カルボニル価という指標には変化がないとのこと。
つまり加水分解反応が起こっているが、酸化反応はしていないということです。
酸価と酸化、わかりにくいですね!
酸価 : 加水分解等でトリグリセリドから外れてしまった脂肪酸(遊離酸)の量。
酸化 : 酸化反応。酸素と反応することと言い切ると不正確だけど、まあ大雑把にそういうこと。過酸化物価やカルボニル価が上昇する。
ココナッツ油やパーム核油の脂肪酸はラウリン酸やミリスチン酸、パルミチン酸といった飽和脂肪酸がほとんどで、したがって非常に酸化安定性はよいものです。
ところがラウリン酸のような炭素数が小さい脂肪酸(低級脂肪酸)のエステルは加水分解しやすいという特徴があります。加水分解に必要な水は空気中に湿気として存在します。
試験条件の5℃-15℃ではココナッツ油、パーム核油は固形になっていますがこの結晶の表面が非常に粗く、つまり表面積が大きいために反応が進みやすいと考えられるのだそうです。(他の固形脂は滑らかな結晶表面になることが多い)
このように劣化した油脂はどうなるか・・・ はっきり言って臭いでしょう。
低級脂肪酸は独特の臭いがあります。特にカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸あたりは特有。
(いわゆるココナッツ臭の一部でもあります)
この手の劣化には酸化防止剤は効きません。
食用油で臭いの発生は致命的なため、いろいろな防止方法が提示されています。
結晶が滑らかになるよう他の液体油を加える、または30℃で3日間テンパリング、あるいはある種の界面活性剤(乳化剤)を添加しろとか。
石鹸原料、家でできる対応としてはどの方法もあまりうれしくないですね。
石けん原料としてどうかというと、酸化はしていないので支障ありません。
遊離酸を発生させるというのは石けん作りの工程で起こっていることです。
※鹸化とは「アルカリ加水分解」のことです。
そしてあらかじめ存在する遊離酸は苛性ソーダと反応しやすいため、トレースが早くなるでしょう。
ということはトレースを早めるために、むしろ積極的に冷蔵庫保管なんていうのもあり?
ちなみに家では・・・冷蔵庫に余裕がなく室温保存なので、この夏は30~35℃。 つまり劣化知らずです!
でも先日作ったココナッツオイル50%石けんが10分トレースだったのは、液→固化→液で一冬越していたから・・・?
※劣化していなくても元々加水分解しやすいので、ココナッツ油やパーム核油を多く配合した石けんはトレースが出やすいです。
参考図書: 「食品油脂の化学」 新谷勛 幸書房(1989)
※少し古い品です。最新の情報ではないかも。
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何でも高温の方が痛みやすいイメージがありますが、そうとは限らないんですね。目からウロコ…ですね。
by めりっさ* (2007-08-26 14:17)
油脂科学のお話って、難しいけど すごく興味あります^。^
5℃,15℃のほうが 痛みやすいだなんて 驚きです。
by pi-ちゃん (2007-08-26 14:41)
油によって、いろんな性質があるんですね~!
うちも暑いので(30~35度)、冷蔵庫入れたほうがいいのかなと思ってたけど、そーとも限らないんですね(^_^;)
by バビ (2007-08-26 17:30)
へー、そーなんですねー
パームやしの育ってるところは暑いところだし、そんなところも関係してるのかな?と思ったり(^^)
私も、一度買うと使い切るのにだいたい1年かかります。うちも、液→固→液ですねー
by ion (2007-08-26 21:22)
面白いです!
ionさんが書いていらっしゃる様に、油も原料の収穫地の
気候に適した性質になるのかしら、と想像していました。
鹸化=アルカリ加水分解、加水分解しやすい=トレースが早い
うわああ。
今さら、トレースの出やすい、出にくい油っていうことが腑に落ちた。
by ハタヤ商会 (2007-08-26 22:35)
高校生の頃は、化学の実験大好きだったのですが、大学時代から数えて45年以上こんな話しから遠ざかっています。
一言一句気を付けて読まないと、意味不明になっちゃいそうで・・・
情ない限りです。
by アキラ (2007-08-27 09:33)
▼みなさまコメントありがとうございます。
■めりっささん
あまり高温もよくないとは思いますが、適温があるということなのでしょうね。
■かっちゃんさん
中途半端に結晶化している状態がよくないようです。
私も有機化学は苦手なので四苦八苦しながら本を読んでいます。
■バビさん
溶けたり固まったりするのもよくなさそうだし、なるべく少ない量を購入して早めに使い切るのがいいのかもしれませんが、このオイルに関しては減るのが遅い! 困ったものです。
■ionさん
ああ、なるほどー。バナナが冷蔵庫で傷むような感じですね(あれは酵素?)。
この2種のオイルはなかなか減らないので適切な保存方法をとりたいところですね。
■ハタヤ商会さん
特に融点や飽和度は産地の気候に影響を受けると思います。固体脂を多く含む種子に南国のものが多いのは、高温でも安定であること(飽和)が必要で、かつその気温である程度の柔らかさを保っていられるバランスでできているのかもしれませんね。
脂肪酸とトレースの関係は私の頭の中ではだいぶ整理できてきたのでいずれまとめてみたいですね。
■アキラさん
ウン十年前の学生時代、私は苦手分野でした・・・。進学校だと授業中心で実験をさせてもらえないというのもあったかもしれません(いいなぁ、実験)
なので本を読むときは別途参考書必須です。
by ゆりくま (2007-08-27 13:38)